2016年04月18日
船乗りの仕事。気づき考え行動する〜入港接岸
ホーサーがしっかり手入れされていると、離接岸時や荷役中、破断の恐れは限りなく安心な範囲となる。
しかし、特に入港接岸時。荷役中。どんな時に傷つくのか。
接岸行程と共に少し詳しく解説する。
接岸バースのビットには番号が振られており、船の長さによって「1から8番に接岸」などと指定がある。
指定番号から、ヘッドラインが1、オモテ(船首)スプリングラインが3か4、トモ(船尾)スプリングラインが6か7、スターンラインが8など概ね事前に決まる。
船や船長の好みにも依るのだが、接岸位置に合わせて船の行き足が止まった状態で…
基本的な接岸
①オモテのスプリングラインから舫いを取る。
次に②ヘッドラインか又は、③トモスプリングライン。
※状況から判断し、タイミングもほぼ同時で取れる方から取る
④そしてスターンラインを取って、ブリッジからの指示にオモテとトモが息を合わせて(阿吽の呼吸)岸壁と平行にゆっくり接岸していく。
※ギュギュギュッと言わせない程度にウインドラスで巻き寄せていく。
基本的手順と注意点
①スプリングラインから取る
船の船首がスプリングのビットと横並び、通過したタイミングで、届く距離ならレッド(ヒービングライン:重りを付けた細いロープをホーサーに繋いである)を振り回して岸壁の綱取りに投げる。と、ここで
危険❶投てき位置に岸壁通行人(車両、障害物を含む)
危険❷スラスター(レッドロープやホーサーを海面上に漂わせない。圧流で流れたり、逆に吸い込まれて巻く)
何処の下にあるのか見て知っていると良い。


危険❸岸壁フェンダーの海面水深(海面と高さがほぼ同じか浮いた状態だと、ホーサーが潜り込み引っかかったり傷が付く原因)。写真ではフェンダーの下部が少し沈む程度に浸かっている。

危険❹フェンダーの船首側からか、フェンダー正面からホーサーをあげてビットにかけてもらう(トモ側から上げるとフェンダーにホーサーが引っかかりこれもまた傷が付く)

フェンダーに変な掛かり方をすると、ピース(半丸形の穴開いた金具)というフェンダー取付け時の金具がホーサーに傷をつける事もある。
などがあり、どれも要注意である。
②ヘッドラインを取る
オモテスプリングを取る(ビットにかける)段階で、綱取りに余裕があるならヘッドラインもレッドを投てきする。余裕無いなら③を待つなど臨機応変。
危険❶から❹'。❹'はトモ側(船に近い側)から
③トモスプリングを取る
オオトモ(最船尾角)からレッドを投てきする。
危険❶❸❹'
危険❺すぐ下にはプロペラがある(ホーサーを出し過ぎて海面上に漂わせない。最重要事項!巻いたらもう出航できない。緊急でダイバー手配)
④スターンラインを取る
接岸絃の反対側からホーサーを出す。
危険❶❸❹❺
これらはすべて、凪であれば順調に段取り通りの行程で、スムーズに接岸することができる。
特異な接岸
しかし当然ながら凪ばかりではない。
危険❻寄る風などは時間が無い(ホーサーも弛みやすい)
また、
危険❼船の行き足(前進、後進)が残っている場合もある。
ここでビットにホーサーが掛かった時、どのホーサーにはどんな作用があるか。

例えばオモテスプリング。行き足が前進で残っていた場合にホーサーを張らせると、船はその勢いのまま船首だけ一気に岸壁に寄って行く(岸壁に衝突!船首が損傷を受ける。岸壁側フェンダーの損傷は1000万円ほど掛かる)

スターンライン。接岸絃の反対側から巻き寄せるので、船を岸壁に寄せる力が一番強く船尾が一気に寄る。
後進行き足ならヘッドラインとトモスプリングが同様に作用する。
危険❼'船長によっては、結構な行き足なのに「スプリングで行き足停めて!」などと怖いことを言う方もある。
行き足の程度にもよるがそんな場合には、一旦張ったように見せてからホーサーをウインドラスで緩め、徐々に緩め方をゆっくりして行き足を停めていく。そうすれば岸壁への寄りは少しでもゆっくりになる。これが咄嗟にできる人はこれまで見てきた中で非常に少ない。
そしてそんなホーサーの使い方をすれば、傷むのも当然であるし、下手をすれば一瞬で切れて飛んでくる。
〈あくまで考察−その船長のやりかたを否定するものでは無い⁉︎否定してるか(笑)〉
※程度というのは、後進させると一軸右回りプロペラの船は右舷着けの場合船尾が離れてしまう(横圧力)のはわかった上で行き足の勢いが問題。岸壁に船首が衝突するリスクより離れたとしても停船すればスプリングを張ってスラスターで船首を蹴れば幾らか船尾が寄る(水圧を利用した「てこの原理」)など。
※岸壁まで十分な距離があるならまだ良いが、でも大体ホーサーで行き足を停める事がナンセンスだと思うのだが…。オモテのスプリングを取った段階では後進で停めてもトモがレッドを投げる前ならペラで巻く心配も無い。
※以前乗っていた船ではスプリングを張ったりした日には「オモテ張るな!このバカ!!」とどやされていた(笑)
無事に接岸すると最後に、
危険❽岸壁の車止めとホーサーの干渉具合を確認する
ホーサーが車止めの上に乗って張られていれば良いが、引っかかりがある場合には一旦緩めて掛け直してやればいい(車止め損傷数十万円)。その引っかかりでホーサーに傷が付き、荷役や波による船体動揺で切れる可能性がある。
そんな行程を経て接岸する訳だが、岸壁側の綱取りをしてくれる人と船側のホーサーを出す人との連携ができないと、スムーズにはいかなくなる。
特にフェンダー付近でホーサーをビットにかける場合、船とのホーサー角度から❸❹と❹'には船側の捌く全員で神経を使う。
とは言え、そんな事を気にもせず、ホーサーをダーーーッと出して漂わせ、フェンダーの下を潜らせてしまうなぁんにも考えてないボッサリした船員が多くいるのも事実である。マジで言いたい。このクソどもが!(©️笑)
常に変わる接岸
ホーサーを取る順番①〜④は後進接岸なら②ヘッドラインから取ったり、③トモスプリングから取る場合もあるし、風や潮流のため②や④スターンラインから取る場合もある。

船の状態や港の特色で、その都度臨機応変に対応できるように、常に状況把握しておくのが肝要だ。
その時の乗員の力量(対応力)によって、綱取りの人数や取り方が解っている人かどうか、違ったら直ぐに気付けて直させられるか否かで、接岸時間の短縮、ホーサーの傷みや事故は無くせるのである。
そういう人がいない場合…オモテからトモまで走り回って対応する必要も…
疲れるでホンマに。
補足余談 笑い話
仮バースや、休暇直前には、テンションが高くなって、変なことを言い出す凡ゆる立場の人がいる。
普段通りの流れを崩す様な、タイミングが違ったり、いつもと違うやり方を突然言い出したり、何の問題も無い部分をダメだと言い出したりする。※他のヨタ話に夢中で仕事をすっ飛ばしたりもある
そういう人に惑わされ、いつもと違うことをすると、概ね失敗に繋がる。余計な二度手間や三度手間、ひどい時は一旦船を離してやり直しになることがある。
なので「いつも通りにやるから大丈夫!」と強く促して黙らせるのが一番効果的である。
たまには仕方なく「うるさいだまれ!」と一喝してしまうことも必要だ。
嬉しいのは解るが、人の邪魔はすんな!クソどもが!!©️2回目使用
そんなこんなで、コンテナ船は今日も目一杯でシフト接岸して、寝不足な乗員の体力を蝕んでいます。
船乗りの仕事 コンテナ船 内航船 Full Ver.
http://t.co/RR3pGajY43
船乗りの仕事。第2弾-749型コンテナ船の一週間。荷役 船上生活 離着桟
http://t.co/yqvPkRfhy2
しかし、特に入港接岸時。荷役中。どんな時に傷つくのか。
接岸行程と共に少し詳しく解説する。
接岸バースのビットには番号が振られており、船の長さによって「1から8番に接岸」などと指定がある。
指定番号から、ヘッドラインが1、オモテ(船首)スプリングラインが3か4、トモ(船尾)スプリングラインが6か7、スターンラインが8など概ね事前に決まる。
船や船長の好みにも依るのだが、接岸位置に合わせて船の行き足が止まった状態で…
基本的な接岸
①オモテのスプリングラインから舫いを取る。
次に②ヘッドラインか又は、③トモスプリングライン。
※状況から判断し、タイミングもほぼ同時で取れる方から取る
④そしてスターンラインを取って、ブリッジからの指示にオモテとトモが息を合わせて(阿吽の呼吸)岸壁と平行にゆっくり接岸していく。
※ギュギュギュッと言わせない程度にウインドラスで巻き寄せていく。
基本的手順と注意点
①スプリングラインから取る
船の船首がスプリングのビットと横並び、通過したタイミングで、届く距離ならレッド(ヒービングライン:重りを付けた細いロープをホーサーに繋いである)を振り回して岸壁の綱取りに投げる。と、ここで
危険❶投てき位置に岸壁通行人(車両、障害物を含む)
危険❷スラスター(レッドロープやホーサーを海面上に漂わせない。圧流で流れたり、逆に吸い込まれて巻く)
何処の下にあるのか見て知っていると良い。
危険❸岸壁フェンダーの海面水深(海面と高さがほぼ同じか浮いた状態だと、ホーサーが潜り込み引っかかったり傷が付く原因)。写真ではフェンダーの下部が少し沈む程度に浸かっている。
危険❹フェンダーの船首側からか、フェンダー正面からホーサーをあげてビットにかけてもらう(トモ側から上げるとフェンダーにホーサーが引っかかりこれもまた傷が付く)
フェンダーに変な掛かり方をすると、ピース(半丸形の穴開いた金具)というフェンダー取付け時の金具がホーサーに傷をつける事もある。
などがあり、どれも要注意である。
②ヘッドラインを取る
オモテスプリングを取る(ビットにかける)段階で、綱取りに余裕があるならヘッドラインもレッドを投てきする。余裕無いなら③を待つなど臨機応変。
危険❶から❹'。❹'はトモ側(船に近い側)から
③トモスプリングを取る
オオトモ(最船尾角)からレッドを投てきする。
危険❶❸❹'
危険❺すぐ下にはプロペラがある(ホーサーを出し過ぎて海面上に漂わせない。最重要事項!巻いたらもう出航できない。緊急でダイバー手配)
④スターンラインを取る
接岸絃の反対側からホーサーを出す。
危険❶❸❹❺
これらはすべて、凪であれば順調に段取り通りの行程で、スムーズに接岸することができる。
特異な接岸
しかし当然ながら凪ばかりではない。
危険❻寄る風などは時間が無い(ホーサーも弛みやすい)
また、
危険❼船の行き足(前進、後進)が残っている場合もある。
ここでビットにホーサーが掛かった時、どのホーサーにはどんな作用があるか。
例えばオモテスプリング。行き足が前進で残っていた場合にホーサーを張らせると、船はその勢いのまま船首だけ一気に岸壁に寄って行く(岸壁に衝突!船首が損傷を受ける。岸壁側フェンダーの損傷は1000万円ほど掛かる)
スターンライン。接岸絃の反対側から巻き寄せるので、船を岸壁に寄せる力が一番強く船尾が一気に寄る。
後進行き足ならヘッドラインとトモスプリングが同様に作用する。
危険❼'船長によっては、結構な行き足なのに「スプリングで行き足停めて!」などと怖いことを言う方もある。
行き足の程度にもよるがそんな場合には、一旦張ったように見せてからホーサーをウインドラスで緩め、徐々に緩め方をゆっくりして行き足を停めていく。そうすれば岸壁への寄りは少しでもゆっくりになる。これが咄嗟にできる人はこれまで見てきた中で非常に少ない。
そしてそんなホーサーの使い方をすれば、傷むのも当然であるし、下手をすれば一瞬で切れて飛んでくる。
〈あくまで考察−その船長のやりかたを否定するものでは無い⁉︎否定してるか(笑)〉
※程度というのは、後進させると一軸右回りプロペラの船は右舷着けの場合船尾が離れてしまう(横圧力)のはわかった上で行き足の勢いが問題。岸壁に船首が衝突するリスクより離れたとしても停船すればスプリングを張ってスラスターで船首を蹴れば幾らか船尾が寄る(水圧を利用した「てこの原理」)など。
※岸壁まで十分な距離があるならまだ良いが、でも大体ホーサーで行き足を停める事がナンセンスだと思うのだが…。オモテのスプリングを取った段階では後進で停めてもトモがレッドを投げる前ならペラで巻く心配も無い。
※以前乗っていた船ではスプリングを張ったりした日には「オモテ張るな!このバカ!!」とどやされていた(笑)
無事に接岸すると最後に、
危険❽岸壁の車止めとホーサーの干渉具合を確認する
ホーサーが車止めの上に乗って張られていれば良いが、引っかかりがある場合には一旦緩めて掛け直してやればいい(車止め損傷数十万円)。その引っかかりでホーサーに傷が付き、荷役や波による船体動揺で切れる可能性がある。
そんな行程を経て接岸する訳だが、岸壁側の綱取りをしてくれる人と船側のホーサーを出す人との連携ができないと、スムーズにはいかなくなる。
特にフェンダー付近でホーサーをビットにかける場合、船とのホーサー角度から❸❹と❹'には船側の捌く全員で神経を使う。
とは言え、そんな事を気にもせず、ホーサーをダーーーッと出して漂わせ、フェンダーの下を潜らせてしまうなぁんにも考えてないボッサリした船員が多くいるのも事実である。マジで言いたい。このクソどもが!(©️笑)
常に変わる接岸
ホーサーを取る順番①〜④は後進接岸なら②ヘッドラインから取ったり、③トモスプリングから取る場合もあるし、風や潮流のため②や④スターンラインから取る場合もある。
船の状態や港の特色で、その都度臨機応変に対応できるように、常に状況把握しておくのが肝要だ。
その時の乗員の力量(対応力)によって、綱取りの人数や取り方が解っている人かどうか、違ったら直ぐに気付けて直させられるか否かで、接岸時間の短縮、ホーサーの傷みや事故は無くせるのである。
そういう人がいない場合…オモテからトモまで走り回って対応する必要も…
疲れるでホンマに。
補足余談 笑い話
仮バースや、休暇直前には、テンションが高くなって、変なことを言い出す凡ゆる立場の人がいる。
普段通りの流れを崩す様な、タイミングが違ったり、いつもと違うやり方を突然言い出したり、何の問題も無い部分をダメだと言い出したりする。※他のヨタ話に夢中で仕事をすっ飛ばしたりもある
そういう人に惑わされ、いつもと違うことをすると、概ね失敗に繋がる。余計な二度手間や三度手間、ひどい時は一旦船を離してやり直しになることがある。
なので「いつも通りにやるから大丈夫!」と強く促して黙らせるのが一番効果的である。
たまには仕方なく「うるさいだまれ!」と一喝してしまうことも必要だ。
嬉しいのは解るが、人の邪魔はすんな!クソどもが!!©️2回目使用
そんなこんなで、コンテナ船は今日も目一杯でシフト接岸して、寝不足な乗員の体力を蝕んでいます。
船乗りの仕事 コンテナ船 内航船 Full Ver.
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船乗りの仕事。第2弾-749型コンテナ船の一週間。荷役 船上生活 離着桟
http://t.co/yqvPkRfhy2
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
私も去年まで
海上コンテナの輸送
トレーラー運転手を20年やってました
運転手時代はマーシャリングもやってましたので
多少なりとお気持ちは理解出来ます
カリカリせず安全に御仕事してください
コメントありがとうございます!
はい。もうイライラは通り越して諦めるしか無いです(笑)
ただ、何回やってるねん…という感じにはなりますね。
でも、やりたくてなった船乗りの仕事なんで、それもまた面白味のひとつだったりもします。先回りして未然に防ぐとか、何かあってもすぐに解決できたりすると、自分も成長したんやなぁなんて嬉しく思ったり。
もう少しで休暇なので気を抜かず頑張ります。
ちょうど、ヒービングラインの錘の名称をしらべていたら
こちらのブログがあったので久しぶりにお邪魔させていただきました。
とりわけ、そのヒービングラインの錘の名前、ご存じないでしょうか?
『モンキーフィスト』と呼ばれるヒービングラインの錘の名前があるのですが
それ以外ではどんな呼び方があるかご存じないでしょうか?
『モンキーフィスト』は猿結というか、こぶし大の大きさくらいに砂袋を入れ
投げる錘、昔が大体そんな感じでしたね。
今のゴム製になってからの呼び名が知りたいのです。
もし、ご存知ならばご教授願います。
よろしくお願いします。
尚、現在は車両船の14000トンに乗船して、名古屋、仙台、苫小牧を行ったりきたりしています。毎日スタンバイ、毎日入出港です。
定員11名に対して、15名乗船、さらに明日また二人ほど乗船して一人帰ります。女性が4人も乗っています^^;
ご無沙汰しております。
時々貴殿のブログには立ち寄らさせてもらっていますが、コメントまで残せず申し訳ありません(笑)
ヒービングラインの錘の件ですが、残念ながら正式な名称は知らぬまま、単に「レット」又は「レッド」と呼んでいます。
船具カタログを見れば正式な名称があるかもしれませんが、現在講習のため休暇を取っておりまして、直ぐには返答できないので乗船次第確認してみます。(そういえば注文しなくては(笑))
14,000トンですか。フ○○○ンスのROROでしょうか。以前乗っていた船で時々スライドしていました。
ブログ読みましたが、結構大変そうですね(笑)
お身体に気をつけて、怪我の無きようご安航をお祈りしております。