船乗りの仕事。レアケース。

大阪の海人

2015年03月11日 22:07

先日、東京湾にて荒天避難で錨泊した。
翌日嵐が去り、抜錨スタンバイの時にそれは突如として起きた。
前日から南東の風浪が強く8節いっぱいまで錨鎖を張っていたのだが朝には北東に変わっていた。走錨は無かったが錨はぐるっと回っていることになる。
巻き上げていくとなにやらアンカーにヘドロに塗れたロープのようなものが…。
ブリッジに直ちに報告してカギ竿を持ってくる。
この時点ではもうアンカーは海底から離れていることになり、船は風に流されていくため一刻を争う。
カギ竿で引っ掛けて引いてみるが動かない。アンカーを下げてみるが重くて動かない。
一旦レッコしてみて巻き上げるとヘドロが落ちてワイヤーと判明。と、同時に少し緩んだ状態に。懸命にカギ竿で手繰り放そうと試みるもやはり重い。
再度レッコしてみる。
何度かやってみるが緩んでくるものの放すまではいかない。
そうするうちに先端が見えた。それほど長くは無さそうである。その旨をブリッジに伝えると、そのまま引きずって走るからもう一方の先端を見ろとの指示。
走り出すともう一方もそれほど長くは無さそうだった。船速に流されてすぐに海面近くまで上がってきたからである。
再度ブリッジに伝えると、幸い接岸する舷側のため、接岸してからの作業で何とかなると判断してバースへと向かうことに。
荷役も数時間かかるので着けてからでどうにでもなるというわけだ。




不安は残しつつ引きずりながらの接岸を敢行。少しいつもより大回り気味で岸壁へ寄せ、注意しながら何とか接岸完了した。

荷役はすぐに始まったが、我々は全員でカギ竿やらロープなどの道具を掻き集め係船ロープにつかまってアンカーまで降りてワイヤーを解くなどの段取りを考えていた。
荷役サーベイヤー(ステべ)達も何人か見に来て、長い竿を貸してくれたりと一時騒然となった。
船長も船首まで来て見ながら陣頭指揮を執る。が、途中何やら電話で話し始めた。

電話を切ってから本当にほんの数分後、伝馬船に乗った人がアンカー付近にやってきた。
一同「え?!どこから?」
対岸でガット船が浚渫作業をしていたのだがそこから応援に来てくれたようだ。
船長が話していたのは昔の船乗り仲間だった。その人から対岸のガット船に連絡してもらい救助してもらうことができたのだ。
手馴れた伝馬船の船員はモノの5分でワイヤーを解き放してしまった。
その場でいた全員で御礼を言うと、伝馬船は手を挙げてさっさと帰っていく。
そこへ本船の船員達がロープと道具を持って戻ってきた。
「あれ?!ワイヤーは?」
「もう終わったよ」
「は?!」
となって一件落着となった。
船乗りの世界のシーマンシップ。
困った時はお互い様で助け合う。
これは本当に素晴らしいと思ったし、逆の立場になった時、何かできるならしたいものだ。
しかし何より船長の電話一本で最寄りの船に辿り着く繋がりに驚いた。

船乗りの仕事。業界は狭いのだということも垣間見れた出来事だった。
悪いことはできませんぞ!(ムックの声で)

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